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*このサーバーに関する情報は公開されていません



 認証コード(公開鍵)を確認中..................『マスターキー』を受け付けました。
 

*危険!!*
 このホストから悪意あるウィルス攻撃を受けたという情報があります! 危険なホスト(code:A067)に指定されています。接続を続行する場合は、リスクを確認し、十分な対策を立ててからアクセスしてください。

*警告!!*
 厚生省電網監査委員会より警告が発令されています。本サーバーの管理者は電子風営に関する法律7条に規定された「危険な風営行為の禁止」に抵触したサーバー運営を行っています。本サーバーにおける違法行為で、脳に重大な損傷、後遺症が残る場合があります。全てのアクセス者の情報はセルネットにおける公情報管理法に基づき、許諾無く収集され、公安活動に利用される可能性があります。また、その身分を偽ってアクセス情報を改竄し、攪乱した者には、「特別な情報の取り扱いに関する法律」に基づき、処罰の対象となります。適法可能性は、最大の場合死刑に該当します。


 認証・あなたは18歳以上ですか?
 >>>>はい
 >>>>いいえ


















 一面、真っピンクだった。
 降り立ったのはどこかの港のようだった。いつの間にか乗っていたピンクのネオンだらけの船から降ろされた黒瀬は、同じくピンクのネオンでいっぱいの島に行き着いた。港から島を望むと、高層ビルが連なっている地区や、洋風の館や城がそびえる地区、アジア風のど派手な寺のような建物が並ぶ地区、ピラミッドが建設されている地区、それに一見すると温泉街のような地区もある。雑多な文化が小さな島にぎゅうぎゅう詰めに押し込まれて、それを露骨に如何わしいピンク色で覆ったみたいだった。
 港の周りでは様々なコスチュームに身を包んだ女達が、楽しそうに群れて歩き回り、船から下りた男達に時折話しかけている。よく見ると、影の方ではやはり半裸みたいな格好をした男達もいる。薄手のドレスや、ネグリジェ、ボンテージや水着に薄いカーディガンを羽織っている女が多く、時折セーラー服の格好や、メイド服のコスプレした連中も目に入る。目を背けたくなる光景だが、黒瀬の腰ぐらいまでしかない小さな子供の姿もあった。
「はぁい」
 突然足下から声をかけられ、黒瀬はぎょっとした。見ると、堤防に上半身をのせた水着の女が、艶めかしい笑みを浮かべながら手を振っている。どうやら海水浴をしていたらしい。海はいかがわしい桃色に煌めいていた。
「ただの女よりね、気持ちよくできるよ」
 唐突にそう言って、ぽかんとしている黒瀬の前で、女はぐいと体を堤防に起こした。叫びださんばかりに驚いた。彼女は堤防に体を預けると、くてんと身を転がす。彼女の足下が、海水を弾いてびちびちと音を立てる。彼女には足がなかった。代わりに、ヌルリとした魚の尾が生えていた――――人魚だ。
「海の底は気持ちいいよ」
 人魚はそう言って黒瀬の手を取ろうとした。後ずさった彼の背が、誰かに当たる。
「初めては普通の女がいいわよね」
 突然抱きすくめられて、胸に顔を埋める。慌てて自分を抱きしめる女を突き放すと、むき出しの胸を強調するボンテージに身を包んだ女がくすくすと笑っていた。その強調された胸は、一体何がどうなってそうなるか――――乳房が三つ、連なっていた。
 立ちすくむ黒瀬の肩を誰かが掴んだ。ぎょっとした。この空間は、艶めかしくもむき出しの欲望が無軌道にうろついているようで恐ろしかったのだ。
「……行きましょう。時間がありません」
 コーディだった。彼女はいつものミリタリーコート姿で、小さな胸を静かに上下させながら辺りを見渡している。その体が、ふっと青く染まった。宙に浮く。
『アウターホリッカーは島の中央部です』
「お前、何とも思わないの」
『何を思うんです』
 彼女は平静そうに言った。動揺しているこっちがバカか……あるいは初(うぶ)みたいで、途端に恥ずかしくなった。それを誤魔化すためというわけではないが、彼女にだって少しは恥じらいの気持ちがあるはずだと思い、遠回しにそれを確認してみる。
「今回は、衣装変えないの」
 前を行く彼女の進行スピードは変わらなかった。返事はない。無視されてしまった。それならそれで良いかと思い、歩き続けていると、ふいに彼女が静止した。勢い余って彼女の横についてしまった黒瀬はその顔を見てぎょっとした。彼女は鼻の上にシワを寄せて、これまで見た事無いような、ドブネズミかゴキブリか――――あるいはアダルト本をこっそり立ち読みしているクソガキでも見るような目をして言った。
『何です?』
 とげとげしいその言い方に、黒瀬は何度か口をぱくぱくと開閉してから、言った。
「…………いや」
 彼女はふん、と鼻でもならしそうな勢いで歩き出した。黒瀬も、おそるおそるその後に続く。
『本ゲームのクリア条件は"正しい選択をしてトゥルーエンドを見る事"です』
「トゥルーエンド? 選択ってどういう事――――っていうか、怒ってる?」
『プラトニックセレクト呼ばれる"全ての事象は二つの選択に細分化される"という思想に基づいてこのゲームワールドは作られています。選択とはこの世界で取り交わされる選択肢を一つ選び取る事です。ここでは全ての選択がなんらかの結末に結びついています。当然、誤った選択を繰り返せばゲームオーバーもあり得ます。怒っていません』
「選択って何を? わざとややこしく言ってるだろ。怒るなよ、あやまるから」
『選択とは全ての選択です。ここでは人生や人との関わりをノンプレイヤーキャラクター(NPC)とのやりとりを通して仮想的に再現しようとしています。単純な挨拶や社交辞令程度ならプレイには軽度の影響しか与えられませんが、時折発生する重大な選択を誤ると即座にゲームオーバーになる可能性もあります。あやまるならお好きに』
「ごめん」
『何がです』
「…………」
『結構。いいですか? このゲームでは選択は慎重に行ってください』
 コーディはすっと細めた眼で振り返る。
『私がアウターホリッカーだったら、今のであなたはゲームオーバーでしたよ』



「イジェクターだな」
 嬌声があちこちから漏れ聞こえる通りを、客引きを避けながら何とか抜けていると、突然肩を捕まれた。振り返ると、ザイルのような細いラインが編み込まれたラバースーツを着た女が、カービンライフルを抱えてこちらを睨んでいた。全身をぴったり覆うアンダーウェアの上に、乳房と局所を避けるようにラバースーツが体を覆っている。
『……人工筋肉です。手を離すまで動かないで』
 コーディが忠告する。
『動けば殺されます。そういう、"重大な選択"に設定されています』
 黒瀬の周囲を、同じような格好をした女達が取り囲む。黒瀬は自分の肩に置かれた手と、眼光鋭い女達を見比べて、口に出さずに『言う』。
「ついて行くか、殺されるか意外の選択肢は?」
『……このサーバーは違法な性行為を行うための抜け穴(セキュリティホール)だらけです。そこを突けば、敵が用意した選択肢の外――"第三の選択肢"を選ぶ事も可能になります。ですがそうした途端、アウターホリッカーはセキュリティホールを閉じてしまうでしょう。つまり』
「――――チャンスは一回、か」
 黒瀬の言葉に、コーディはうなずいて見せた。
「主人が呼んでいる。来てもらうぞ」
 黒瀬は辺りを取り囲む女達を予断なく見回してから、舌打ちした。
 彼女たちにせき立てられるように連れてこられたのは、島で最も高い丘にして中央に位置する、教会だった。もっとも、教会の尖塔に掲げられた十字架は上下逆向きだし、染みだらけの巨大な扉には牛頭の骨がつるされていて、そもそも教会自体が真っ黒に染め上げられていて、とても清廉潔白な神をあがめる場とは思えない。邪悪な者を崇拝する教会だ。煉瓦造りの中の通路は薄暗く、窓の外から差し込む、赤い月の光だけを頼りに歩いた。
 たどり着いたのは広大な講堂だった。説教を垂れるはずの台には青い炎に焼かれる聖書が踊っていて、十字架を背にしたマリア像があるべき場所には、赤黒い十字架の彫られた手足と首を切り落とされた胴体が鎮座している。
『アウターホリッカーです』
 コーディが囁く。彼女の視線を追うと、講堂のど真ん中に置かれた長大な縦長の卓の先で、一人の女がふんぞり返って足を卓の上に投げ出していた。小柄な女だ。いや、ほとんど幼女と言ってもいい。未発達な体は鈍い銀色の装飾品に覆われている――が、それは胸と股間を最小限に覆っているだけだ。投げ出した足は蛇がのたくったようなブーツに覆われていた。銀色の髪は軽いウェーブを描いて彼女が手にした真っ赤なリンゴに滴っている。長く鋭い爪が慈しむように紅いリンゴをさすり、どす黒いルージュの引かれた唇が、艶やかなリンゴの表面に這う。
「人に渦巻くあらゆる欲望は、全てこいつから始まったんだ」
 顔を上げた少女は舌を這わせたリンゴにかじりつくと、子供には似つかわしくない悪意に満ちた笑みを浮かべて、黒瀬にそれを放った。卓を滑った赤い固まりが、黒瀬の前に滑り込む。密が詰まってそうな、黄色い囓り跡が、黒瀬を見上げて止まった。
「遅かったなイジェクター。ここは欲望が支配する醜く儚い世界。君が現れるのを待っていた」
「……お前を排出(イジェクト)する」
 少女は高らかな哄笑を上げた。甲高い、子供の笑い声が講堂に響いた。
「排出(イジェクト)? 私を? 愚かな……君がイジェクトに来たのではない。私が君を招いたのだ。これは罠だよ、イジェクター。私というアウターホリッカーは甘い甘い禁断のリンゴさ。かじりついたが最後、君は蛇の思うがまま……」
 彼女はそう言って、舌をぺろりと出した。真っ赤なそれは、先が二つに割れていた。うっと黒瀬は息を詰まらせ、目を細める。
「さぁ、席につきたまえ。交渉を始めよう」
 ……どうやら、彼女の言う"交渉"というのが、ゲームの始まりという事のようだ。
 席に着くのは簡単だ。だが、それは相手の用意したステージに上がるということになる。彼女と、彼女の周りでアサルトカービンを手にした女用心棒に視線を巡らせる。幼女(ガキ)は問題ない。女用心棒も、ゲームに備えてライフルの銃口を下げている。これならオーバークロックの高速処理で、用心棒達がライフルを上げる前に幼女を殺せるだろう。"第三の選択肢"を使うチャンスだ。
 黒瀬はコーディに目をやった。彼女はうなずき、次の瞬間、腰の裏にずっしりと重い感覚が現れる。手をやると、そこに冷たい黒金の感触があった。拳銃だ。引き抜くと同時にアウターホリッカーの頭へ引き金を引く――――難しい事ではない。両手さえ使えれば、正確に狙いをつけられる自信はあった。周りの武装した女達はまだ気がついていない。余裕綽々の少女の顔を吹き飛ばせると思うと、黒瀬の口角は獰猛に持ち上がった。
「交渉決裂だ。悪いが俺の"選択"はこれだ」
 黒瀬が拳銃を引き抜こうとした瞬間、少女は余裕の笑みから吹き出しそうな声で言葉を紡いだ。
「その選択はよした方が良い。祖父の重要な秘密を一つ、失う事になるぞ」
 黒瀬ははっとして動きを止めた。
 祖父の秘密――――その言葉は黒瀬の耳を突き抜けて、彼の脳を揺り動かした。それは、自分がこの世界に降り立った理由。自分がこんな姿に身をやつした理由だ。
 なぜ、祖父の事を、知っている――――
 少女は肩を揺らす。
「さぁ、席に着くといい……"選択"はこれから始まるんだ」








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