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 …………。なっはは! 冗談冗談。明日に備えてね、砂那君がどれくらい冗談が通じる人か試してみたくてね。私、あんまり話し上手じゃないから。砂那君にリードしてもらえるかなって――だけどあんまり、期待しない方が良いかな? あ、信号青になったから、また明日ね!

 瞼を開いた。

 切れかかった、震える光を放つ白い蛍光灯が、目に入った。目を細める。見知っているようで、よく知らない天井だった。
「(……宇宙人)」
 身を起こした。
 その部屋は広くはないが、落ち着いた暖色系で統一された、シックな書斎だった。一人部屋相応の広さ。壁際に本棚が立ち並び、そこにはぎっしりと、厚さ様々な本が詰まっている。砂那はそれらに目を配りながら、首を回した。彼が座っているのは革張りのゆったりとしたリクライニングチェアで、彼はそれを斜めに倒してのんびりと背を伸ばしていた。木製の袖にキャビネットのついた書斎机に伸ばしていた足を、ぎゅっと背伸びしてさらに伸ばすと、リクライニングチェアの上にたたんだ。
「……つまんない冗談だな」
 呟いてみる。口にしてみても思う。冗談とは思えなかった。いくら言い訳にしても、もう少しマシな言い訳があると思う。
 部屋の壁にかけられたアンティークの時計が、刻々と時を刻んでいた。静かに、振り子が揺れている。
「(――まぁいいや。どうせ大したことじゃないんだろうし。考えるだけアメリカが遠くなりそう)」
 砂那はもう一度頭を振って、思考を振り払った。
「(……そうだ、それより、『大事なもの』を探してるって言ってたよな)」
 砂那は椅子から身体を離し、部屋を眺める。
「……わざわざ入ったんだし、探さないと」
 この書斎は父親の書斎だ。長い間住んでいるが、この部屋に入ったのは初めてだった。
 砂那と父親の間には海よりも深い溝と、天よりも高い壁があって、それは部屋割りに関してもそうだった。砂那は絶対に父親の部屋には入らなかったし、父親も絶対に砂那の部屋には入らなかった。たとえ行方知れずとなろうとそれは同じだ。
 だが、今日鳴海カナが来てから、砂那の中で何かのタガが外れたようだった。何と無しに部屋の前を通ると、大して何も考えずに中に入っていた。あまり人の匂いのしない、冷たい部屋だった。
「一見してそれとわかる物――か。本棚にはないよな……じゃ、こことか?」
 砂那は書斎机の袖のキャビネットに手を伸ばした。四つある引き出しの、一番上を開けてみる。
「――うわっ。何だこれ……書類?」
 引き出しいっぱいに、紙束がぎっしりと詰まっていた。手に取ってみる。
 日本語でないのがほとんどだ。何か書き込みのようなものがしてあるが、中国語やハングル、ロシア語らしき文字が入り混じっていて、書いてある内容なんてさっぱりわからない。英語の書類もあるが、単語がみた事ないものばかりだった。
「……なんなんだ、これ」
 二段目も三段目も書類だらけだった。それもだんだんと、書かれている言語の予想もつかなくなってくる。もはや文字ですらなく、ただの絵の羅列だったり、騙し絵みたいな図が張ってあったり、黒の塗りで潰された一文があったりと、得体が知れなくなってくる。
「……なんか」
 嫌な悪寒がした。いくら公安でもこんな文章を扱うのだろうか? 四段目に手をかける。
「……あ」
 引き出しいっぱいの大きさの大きなアルバムが出てきた。明らかに、それまでのものとは毛色が違う。思わず手に取り、中を眺める。
「写真……まだ母さんがいた頃のか」
 中には色あせた写真が詰まっていた。海を背景にして楽しそうに笑っているまだシワの少ない父と、小さな自分を抱えた母の姿があった。どこかに旅行に行った時の写真だろうか。海が深く、蒼い。透けるような水色の空に、霞むような雲が漂っていた。
「(……久しぶりに見るな、母さんの顔なんて)」
 砂那の母親は、随分昔に家を出て行っていた。その原因は父親の長期不在だったり、砂那の知恵遅れ――砂那は英雄願望が強く、古い戦史や古典文学を学ぶ知的な少年だったが、同時に、読むのはまだしも書くのが全くできないという『足らない』子でもあった。まともに文章が書けるようになったのは中学生の頃で、割り算・掛け算がちゃんとできるようになったのは中学三年の頃である――だったり、その知恵遅れに対する矯正に関する父親との対立だったらしいが、砂那にとってそれらはどれも知らない事ばかりで、彼にわかったのは唯一つ。『母親が帰ってこない』という事実だけだった。
 幼い頃から父親に『不正規な技術』を叩き込まれていた――それは砂那が『正義のヒーロー』に憧れるばかりに父にねだったものだった――砂那は、その技術を用いて母親を必死に探した。そして、雪が降る寒い夜に、ようやく見つけ出したのだ。見つけ出したのだが、しかし、母親は帰ってこなかった。
 つまりはそういう事だ。砂那は打ちひしがれて家に帰り、珍しく家に帰っていた父親に、「母さんを連れ戻さないと」「母さんは帰ってこないよ」と泣いて訴えた。父親はそれに無言で答え、さらに続けると拳骨で答えた。
 それは家を出て行った妻に対する怒りの八つ当たりというより、あくまでも『不正規な技術』の延長線上にあるそれだった。つまりこういう事だ。母親がいなくなっても、わめかず、泣かず、黙れ。それが正義のヒーローに必要な技術だから。
 それ以来、砂那は周囲全てにオドオドするようになった。どう接すれば良いのかわからないのだ。悪い奴を殴れば良いのか、困っている人を助ければ良いのか――しかしその結果はどうなる? これまでそうこうしている間に、母親はいなくなってしまった。バカみたいに一生懸命なっている間に、大事なものを失ってしまった。
 次第に愛想笑いが上手くなり、積極的な姿勢を押さえ込むようになった。できそうもない事に挑戦するのはやめた。できる事だけをこそこそやり、表向きは何も考えていないように振舞う。へらへら笑い、ふらふら漂う。
 良いとは思えない。だが、そうするのが今のところ、一番なのだ。
「……早く探さないと」
 砂那はアルバムを皆まで見ずに放り出した。五段目の、最後の引き出しに手をかける。
「ん? ていうか、もう最後なんだ」
 そう呟きながら、ひっぱてみる。が、少し開きにくい。強引に力を込めて引っ張ってみた。すると今度は勢いよく外れて、沙那はディズニー映画のコメディのごとく派手にすっころんだ。中身がぶちまけられ、額に堅い物が当たる。
「いって! っ――!!」
 沙那は自分のまぬけっぷりに嫌気がさしながら、額をぐしぐしとさすった。理不尽な怒りがわき起こり「なんなんだ……」と辺りを見渡すと、ちょうどすぐ脇に当たった物らしき鉄の塊を見つけて、乱暴に手に取った。ごつごつとした、冷たい鉄の塊。握りやすいでっぱりがあり、思わずそこを握っていて、それを見やると、あの、『独特な握り方』を無意識の内にしていた。
 紛うことなき、黒金の拳銃だった
「――ッ!?」
 ぎょっとして放り出し、尻餅をついたまま後ずさりする。すると後ろに差し出した手の平が堅くて丸い物を押さえてしまい、その丸い物がクルリと回転して滑ってしまう。慌ててそれに目をやる。
 ぎらぎらと薄汚れた金色の光を放つ、銃弾が転がっていた。
 嫌な予感に後ろ髪を引かれて振り返ると、そこには銀色のボックスが口を開けて床に転がっていて、その周囲には無数の銃弾がぶちまけられていた。
 喉を鳴らした。
 こういう時、なんと言えば良いのだろうか。冗談の一つでも言いたかったが、言葉にならなかった。ただ誰が見ているわけでもないのに焦ってしまい、急いで転がった銃弾と拳銃を下の引き出しに突っ込んで戻した。
 額に手を置いて、意味もなく足をぺたぺたとならして部屋をうろつく。
「……ええとどうしよう。まずどうすればいい? 警察に届けて……いや、もし勘違いされたら……」
 沙那はぶんぶん頭を振って、「とにかく何も見なかった。僕は何も見なかった」とぶつぶつと呟いて部屋の電気を消し、部屋を出て行った。



 
 
 砂那の手により扉を開かれ、そして閉まった。取っ手についた認証センサーが作動する。指紋を照合し、セキュリティコードと合致を確認。スイッチが入り、そこに電流が流れた。

 

 
 
  沙那の後ろで扉が閉まった瞬間、時計が時を告げる鐘の音を大きく鳴らし、それを合図にしたかのように鉄板がへし折られるような轟音が家中に響いた。家が揺れ、足下が震える。
「ッ!?」
 弾かれるように沙那は姿勢を低く取り(無意識な防衛体制だ)周囲を見渡す。
 部屋の中は暗い。沙那一人しかおらず、沙那は夜中に電気を煌々とつけるタイプではない。真っ暗な廊下が、轟音の後の静寂を引き連れてきて、まるで何事もなかったかのように沈黙している。
「……下?」
 音は足下からしたように思えた。生唾を飲み込み、一度呼吸を深く取った。
「(何だ……時計なんて一度もなったこと無かったのに……何かスイッチが入った……? だとしたら、なんで……)」
 砂那は沸き起こる疑問の群れを、意識的にカットした。小さく、音を立てずに深呼吸する。
 胸の内に広がる詰めたい感覚を、ゆっくりと拡散させた。そっと歩を進めて、地下に向かった。地下室は物置代わりに作ってあったものだが置いてあるのはせいぜい工具類程度で、ほとんど『空き部屋状態』だ。
 地下室の扉の前に来ると、鍵を開き、中をそっとのぞいていみる。真っ暗で、何も見えなかった。音を立てないよう、慎重にポケットからLEDのペン型フラッシュライトを取り出す。軍用の強力なものだ。暗闇で人に向けて使えば、その視力を奪う事もできる。
 ライトを逆手に構え、扉の前で中から音が聞こえないか耳を澄ませた。はっきりとした音はしなかったが、かすかに何かがいる気配がした。ライトをつける。
 ドアノブを開き、一気に中に侵入した。
 素早くライトを周囲に向け、中の様子を確認する。
 暗闇が眩しいほどの真っ白な丸い光に切り取られると、壁の一部が大きく陥没しているのが見えた。まるで内部から爆破したかのようにコンクリートがはぎ取れ、中の鉄骨と茶色い砂が見えている。
 沙那は警戒しながら、ゆっくりと近寄っていった。中をのぞくと、何か銀色のケースのような物が壁に埋め込まれているのが見えた。縦長で、ちょうど棺のような形と大きさをしている。離れて見ている時は壁の素材の一部かと思っていたが、こうして見ると明らかに他の物とは質が違った。鉄骨は黒く塗装されて所々赤さびているし、飛び散っているコンクリートの破片は薄汚い。だがこのケースはフラッシュライトの光をぎらぎらと跳ね返し、全く錆びてもいない。感触を確かめようと、と手を伸ばしてみる。
 背後で小さな金属音がした
 はっとして振り返る。途端、明らかな人の気配が一気に迫ってきて、「びゅおっ」という風を切る音と共に真っ黒な人影が飛び掛かって来た。
「うぁ!?」
 沙那の体はその明確な危険に反射敵に動いた。バックステップで体を下がらせ、影との距離を取ると同時に左手を前に低く突き出す。攻撃のためではなく、真っ黒な固まりが背を丸めて刺突武器を脇腹に抱えているように見えたから。
 沙那の左手は影の腹の中に深く潜り込み、案の定、その手にしっかりと両手で握られていた工務用のピックナイフを上から押さえつけた。と同時に右手に握っていたフラッシュライトで相手の『顎』らしき所を殴りつける。影が「か」と息を漏らす。
「ぅらあッ!」
 その隙を突いて沙那は左膝を影の腹にたたき込んだ。確かな手応えがあった。そのまま抵抗の弱くなった影の足を踏みつけ、腰を掴んで横に引き倒す。
 どさり、と影が地面に伏した。沙那は息を荒くしながらフラッシュライトの眩しい光を影に向けた。
 まず足が見えた。色白の、ほっそりとした足だ。沙那の心中に「よかった人間で……」という少し間の抜けた(しかしそれくらい怖かったのだ)安堵が小さく広がる。そのまま光を上半身へ向けた。
 しかしなんだか様子がおかしかった。いや、そもそも足を見た時点で違和感はあったのだ。人を襲うような人物にしては、細すぎる足だった。さらに太ももに光を向けた所で「あれ、もしかして……」と思い、腰辺りに光を向けた所でそれ以上、光を上半身へ向けるのをやめた。

 女の子だ
 あと服着てない

 合気の先生も剣道の先生も柔道の先生も空手の先生もその他諸々、沙那に『技』を教えてくれた先生はみんな、技の使い道について同じ事を言っていた。
「人に使うな。特に、女子供」
 全部満たしていた。
 頭を抱え込みたくなりながら、しかし沙那は油断せず、とりあえず頭があると思われる場所に光を当てた。
 白い肌と真っ黒な長い黒髪を持つ少女だった。顔立ちはまだ幼さが残るが、つんとすましたような、人を突き放すような、そんな繊細な工芸品のような目鼻立ちをしている。瞳は力なく閉じられているが、開かれている時は、きっと大きくて、引き込むような目をしているのだろう。
 胸の位置(もちろん二つのアレはぎりぎり見えない位置)に光を向け、それが上下に動いている様で呼吸が深い事を確認する。気絶したようだ。
 「そんな簡単に人は気絶するか?」という疑問が頭をかすめたが、すぐに考え直した。相手は女の子だ。沙那の膝蹴りは中学生時代、大の大人も「吐くかと思った」と漏らしていたくらいだ。こうして見ると随分華奢なこの少女には、随分なダメージを与えたはずだ。
 沙那はひとまず彼女をここに放置し、一階に向かった。毛布がどこかに梱包されていた。『何で女の子がこの家に?』『なんで自分を襲った?』という疑問は一度脇に置いておく。
 積み上げられていたダンボールの山を崩し(さっきからまとめた物を取り出してばかりで非生産的だ……)紐で括られた毛布を探し出す。箱から引っ張り出そうとした。
 ふと、喉元に冷たく、柔らかい感触を感じた。はっとしてそれに手を伸ばそうとして、
「ぐが――ッ!」
 一気に強い力で後ろに引っ張りあげられ、呼吸ができなくなった。絡みついた腕に手を食い込ませるが時すでに遅く、腕は硬く喉を締め上げていく。
 背後からの両腕をクロスする形の絞首だった。咽喉が押しつぶされる痛みと呼吸ができない苦しみが脳を蹂躙し、理性が奪われる。体を振り回して拘束を取ろうとするが、相手は巧みに食らいついてきて離れない。脳への血流が滞り、目の前にポツポツと黒い点が現れた。
「(……ッ、落ちる……!?)」
 かつて柔道の先輩に冗談で絞められ、本当に落ちた時、これと全く同じ経験をしていた。視界に黒点が現れたと思ったら、すぐにそれが視界全体に広がり、次の瞬間には気を失っていた。今も黒点はどんどん増えていく。
「がはッ」
 脳の中で本能がのさばり始めるが沙那はそれを必死に押さえ込んだ。理性で腕をコントロールし、相手の脇腹に肘打ちをたたき込む。が、しかし相手はするりと死角に入り込んでそれを避けてしまう。さらに強く、万力のような力で締め上げてくる。沙那は痙攣し始めた腕をがむしゃらに動かし、絡みついた腕の肘に右腕を当て、同じく絡みついた腕の手首に左腕を押し当てた。その両手をがっちりと組み合わせ、上半身を回転させる。
「ぐぬ……ぁぁぁあああああー!!」
 てこの原理で絡みついていた腕が引きはがされた。ぐるりと相手の脇に回り込み、間髪入れずに左膝蹴りをたたき込む。
 が、しかし相手はさっとバックステップでそれを回避してしまった。沙那と距離を取って、対峙する。
 沙那は口の端からたれるよだれを拳でぬぐいながら、半身で相対した。
「……誰なんだよ」
 荒くなった息の合間にそう尋ねる。
 天窓からの月の採光に照らされた青白い裸体の少女が、凛冽の深海のような色濃い群青色の瞳をぐっとこちらに向けていた。長い黒髪が腰の辺りで静かに揺れている。
 彼女の小さな唇が開いた。
「お前、地球人だな」
「……」
 意味はわからなかったが敵意はひしひしと感じた。彼女は沙那が答えないと見るや、レスリングをより実践的にしたような低い構えを取る。沙那も膝を深く取って足を隠す。
 長い睨み合いが続いた。
「……オォォォンッ!」
 それは人間というよりは獣の叫ぶ威嚇の声に近かった。彼女は素早く沙那の足に飛びつき、沙那は左膝で容赦なく彼女の顔面を狙う。しかし僅かに反応の遅れた彼は(絞首のダメージが利いていたのだ)後ろ足を取られる事を許してしまう。そのまま彼は転倒。気づいた時にマウントを奪われていて
「このっ――」
 少女が体重を乗せて首を押さえつけてきた。よほど確実に殺したいらしい。
 しかし今度は沙那も油断しない。素早く少女の両腕の間に腕を突っ込み、左右に押し開く。いとも簡単に腕は外れ、同時に彼女の鼻に向かって頭突きをかました。
「ぅっぷ――」
 と彼女はのけぞり、その顔面に左右のフックでラッシュをかける。上半身しか使えない不格好な左フックだが、綺麗に決まると彼女の体からふら――と力が抜けた。そのまま後ろ髪を引っ張られるように床に倒れ込んだ。
 沙那は彼女の体の下から抜け出す。立ち上がって、彼女の力の抜けた体に構える。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁー」
 彼女は動かなかった。長い髪が顔にかかり、力なく瞳は閉じている。
 今度こそ気絶した。
 沙那は手近のダンボールにもたれかかって、息を大きく吐いた。喉に手を当てて、撫でる。
「ごりごりする……うぇ。なんなんだ……」
 また動き出さないように紐で両腕を縛ってやろうかと思う。そこで彼女の腕に何か変な物がついているのに気がついた。銀色の装飾のないリングが――ちょうどさっきのケースと同じような銀色だ――巻かれていて、そこに何かアクセサリのような物がついていた。近寄って、よく見てみる。
「……鍵?」
 二つの鍵と青白く光る小さなカードのような物がついていた。カードは太陽の光が当たった水のように、ランダムに青い光が蠢いている。鍵の方に目を移すと、それぞれプラスチックと木でできたプレートが一緒についていた。沙那はそれらをしげしげと眺め
「なんだこれ……?」
 プレートに書かれている数字に気がついた。
「421番……」
 プレートには大きな黒い文字で「421」とあった。もう一つの鍵にも、木でできたプレートがついている。こちらは走り書きで「鳩の7」と書かれていた。
「(鳩……7……)」
 奇抜な出来事で構成された奇妙な連想ゲームに巻き込まれたようだった。
「『地球人』……?」


 『あなたのお父さんは宇宙人を追ってた』――って言ったら、信じる?


「……宇宙、人」
 身体から力が抜けた。
 近くにあったソファーに倒れ込む。
 呟く。
「父さんは何したんだよ、本当に……」